霧×霧myパラレるーむ

「キリキリまいパラレるーむ」と読んで下さい。『NIGHT HEAD』の兄弟愛に今だに魅せられている管理人の 懲りない二次小説ルームです。 パラレル中心のBL系ですので、ご入室の際はくれぐれもご注意願いますm(_ _)m

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

八つ墓村迷宮案内いい旅夢気分 番外編

              その1~その後の昭子と美紀子~

月曜日、学校で。

美紀子「なあ、昭子。ウチとこのおきゃ~さん、店に行きよったじゃろ?」
昭  子「うん。来よった、来よった。何やら変わった人達じゃったわ」
美紀子「じゃけ~ど、カッコよかったじゃろ?」
昭  子「うん、うん。もんご~カッコええ~!ウチらと同じ女子とは思われんね~。
     背ェがスラーッと高きゃ~て声も低く~て、
     宝塚歌劇の男役みたいに素敵じゃったぁ
美紀子「あげな~、あんた誰のこと言うちょるん?
     ウチの旅館に泊まっちょった・・」
昭  子「そじゃから、あんたとこのおきゃ~さんで、背ェが低い方の人じゃ」
美紀子「何カバチ言うちょるの?あの2人兄弟じゃよ」
昭  子「カバチ言うちょるのはあんたの方じゃ、美紀子。
     あん人は女の人なんじゃ。
     訳あって男装しちょるって、背が高い方の人が言うちょった。
     ま、ウチが見たところ、
     結婚を親に反対されて駆け落ちして来よったんじゃな。
     じゃから、バレんように女の人の方が男装しちょるんじゃ」
美紀子「嘘じゃ。ウチの宿帳には、
      『霧原直人、霧原直也』って書いちょったけ~、
     間違いのう兄弟じゃ。男同士じゃぁ」
昭 子「『直人』と『直也』?同じ『直』が付いてて不自然じゃぁ。
     わざとらしいんじゃぁ。
     怪しいと思わんかったんかね~?」
美紀子「あんたの方こそ、女じゃのに、
     背ェが高きゃ~て声が低うてちゅうんがおっかしいね~。
     そげ~な、怪しいと思わんかったん?」
昭  子「絶ー対、女じゃ!
     あげ~にモガ風のワンピースが似合うてたんじゃけ~、
     男の訳にゃ~、にゃ~!宿帳は、偽名じゃぁ、偽名!」
美紀子「にゃ~ことない。ウチ、話しよったけ~、弟さんの方と。
     男の声じゃったもんね、あげ~な声」
昭  子「ウチも話しょった。女の人の低い声じゃったよ」
美紀子「そうじゃろか?」
昭  子「美紀子、騙されちょるんよ。ああそげ~にしちょっても、
     あんじょ~駆け落ち出来よったじゃろか?」
美紀子「あん人、十分カッコええのに、何で女装ばしよったんじゃろ?」
昭  子「女装じゃにゃ~て!元が女の人が本来のカッコしちょるだけじゃ」
美紀子「ウチ、どげ~も納得いかんわ・・・・・あっ、もしかして、
     あん人達、狐やら狸やらではにゃ~じゃろうな?」
昭  子「狐と狸?まさかぁ」
美紀子「何やら怪しそうじゃけ~。人間じゃにゃ~かもしれんね~」
昭  子「そげじゃったら、家に帰ってお金確かめんと。
     葉っぱじゃったら、エライことじゃぁ!」

~★。。~★。。~★。。~★。。~★。。~★。。~★。。~★。。~★。。~★。。

               その2~その後の直人と直也~

昭子と美紀子に、狐と狸にされてしまった2人であったが、
何とか無事に、鳥取砂丘から東京のホテルの部屋へと戻って来られた。

直人「(突然、床に降りて来て)イテッ大丈夫か?直也」
直也「うん。僕は大丈夫」
直人「それにしても、今回はスリリングで面白かったな」
直也「兄さんたら、僕に女装しろと言うし、訳あって男装してるとも言うし、
    あの時僕はヒヤヒヤものだったんだから」
直人「今回は早々と自分に戻っちまったから、
    演技する場面が多くて神経使ったぜ」
直也「ほんと!兄さんは女言葉でしゃべろと言うし。
    警察が乗り込んで来た時は、
    心臓バクバクしてもうどうしようかと思ったよ」
直人「俺の機転が危機を救ったんだ」
直也「僕は兄さんという人がわからなくなってきた。
    突然あんなことするんだもん・・」
直也、顔を赤らめる。
直人「だ、だから、あれは・・俺が悪かったよ。俺が・・」
直也「車中だけじゃないよ。弓が浜でも恥ずかしいことするんだから」
直人「あれは、お前が足が冷たいって言うから、その・・仕方なく・・」
直人、照れ臭そうにする。2人、しばし沈黙。

直也「兄さん、その中国服、黒かったら『マトリックス』みたいだね」
直人「あ?キアヌ=リーブスか?」
直也「そう。兄さんは背が高いから、そういうの似合うね」
直人「お前の女装には負けるよ」
直也「からかわないでよ!僕だって好きでしてる訳じゃないんだから。
    兄さんがしろって言うから、仕方なく・・
    あー、早くこれ脱ぎたい。兄さん、脱ぐの手伝ってよ」
直人「可愛いんだからもう少し着てればいいじゃないか」
直也「兄さん!!
直人「はいはい。手伝いますよ、直也君。
   (ボタンをはずしながら)あー、それにしても面倒な服だな。
   こんなにボタンをズラーっと並べて。
   着る者のことを少しは考えろってんだ」
直也「まだファスナーがない時代だから仕方ないよ。
    でも女の人の服って、動きづらいし足元はスースーするし大変だよ」
直人「そうだ!パンツ、お前のっていうか辰弥のっていうか
    借りっ放しだった」
直也「きつくなかったの?兄さん」
直人「別に何も感じなかった」
2人、いつものTシャツとジーパンに着替える。

直也「あっ、兄さん、サイダーどうした?」
直人「おっと、忘れるところだった。昭和26年土産」
トランクから駅弁とサイダーを取り出す。
サイダーは冷蔵庫で冷やす。その間に2人各々入浴
程良く冷えた頃、共に駅弁を食べる。
直人「これが鍾乳洞の水で作られたサイダーか・・」
1口飲んで、瓶をシゲシゲと眺める。
直也「うん。何か・・こう・・
    普段飲んでいる物より美味しい気がするのは気のせいかな?
    このサイダー今でもあるのかな?瓶詰めっていうのがいいよね」
直人「そうだな。町おこしとか何とかで今でもあるかもしれない。
    それとあの旅館、今じゃビジネスホテルかもな?」
直也「でも、あそこがビジネスホテルかぁ・・
    考えたら可笑しいね。じゃあ、あの食堂は?」
直人「あの親父さんが生きている限りは続けるだろう。
    その後ホテルになった時に、
    そのままスライドしてホテルの厨房になるか、
    或いは・・洋食屋になってたりして・・
    だが、コンビ二とかにはなって欲しくない。
    あのまま駅前食堂であり続けて欲しいというのは、俺の願望だけどな」
直也「僕もコンビ二にはなって欲しくないな。
    あの店凄く面白かったもの。
    タイガースファン振りが徹底していてさ。試合に勝つ度半額だし・・
    それじゃあ、優勝した年は赤字になっちゃうよね(笑)」
直人「20年に1度だからいいのさ、阪神の場合。
    それに赤字とか度外視してやっちまうのが、ファンてもんだろう」
直也「うん。そうだね。
    阪神ファンてそういう人が多いような気がする。
    ところで、兄さん、こっちの駅弁だけど・・」
直人「ああ。不味くはない。不味くはないが、
   このホテルの一室というシチュエーションが悪いんだ」
直也「駅弁て電車に乗って食べなきゃ駄目なんだね。
    それと、あの時代背景がないと・・
    昭和26年の物は昭和26年に食べないと駄目なんだと思う」
直人「そういうことだな」

直人「直也、この服どうする?記念に取っておくか?」
直也「うん。取っておく。いろいろ思い出があるし」
直人「初めて鉄道に乗ったしな。昭子と美紀子にも会えた」
直也「あの食堂の人達や古道具屋の・・
    昭子さんのお父さんなんだよね、あの人」
直人「あの人も強烈だったよな。のらりくらりと独特の間があったし。
    俺、尺とか文でいろいろ聞かれただろ?
    昔の単位なんかわからないしで、焦った、焦った!」
直也「昭子さんて、結構世話好きなんだよね」
直人「あれは商売やらせたら、成功するクチじゃないか。
    あれはやり手だ、きっと」
直也「美紀子さんは、美紀さんにちょっと似ている。
    おとなしそうなところとか。偶然だろうけど、顔立ちも・・」
直人「美紀子はお前を意識してたな」
直也「そうかなあ?」
直人「そうだ。俺には素っ気なかった」
直也「違うよ。年が近いから僕の方が声が掛け易かったんだよ。
    僕は兄さんを意識してたと思うな。
    意識してるから逆に素っ気なくなるんだよ」
直人「どっちでもいいさ。
    当時は中学生でも、今では孫の1人や2人はいる年に・・」
直也「兄さん、そういう夢を壊すようなことは・・」

直也の方もトランクから昭和26年土産を取り出す。
直也「これって今から50年位前の貝なんだよね。
    不思議だよ。平成の今、手元にあるってのが」
直人「50年前の地層から発掘したと思えばいいだろ」
直也「発掘か・・」
貝を手にしながら旅の記憶を辿る。
直也「綺麗だったな、日本海も砂丘も。一生忘れられない景色だよ」
直人「俺達の知らない、あんな良い所がまだまだあるんだな。
    本当に行ってよかった。」
直也「自然のありのままの姿って、綺麗で思わず引き込まれるよね。
    冒しがたい美しさがあるよ」
直人「そうだな、神々しささえあった。
    そんな場所だから、日本海で岬老人を、砂丘で翔子を感じたんだな」
直也「うん。彼らは時空を越えて存在しているんだ。
    たぶん、現在過去未来いつでも。日本でも外国でも。
    今回はそれを強く感じた。でも1番感じたのは・・」
直人「1番感じたのは?」
直也「兄さんの優しさだよ。今回女装してみてわかった」
直人「(照れて)な、何を言い出すんだ、お前は!」
直也「兄さんは昔から僕に優しかったけど、
    僕をサポートするとかそういうことをいちいち頭で考えなくても、
    さり気なく自然にできてるんだなあって・・」
直人「・・・・」
直也「だから、今回のことで兄さんをもっともっと好きになったよ」
直人「お前そういうことをよく臆面もなく・・」
直也「言えるよ、僕は。兄さんだっていつも正面切って言うじゃない。
   『俺にはお前が必要だ』って。
   それに、汽車の中で言われた言葉、嬉しかったよ。
   『直也だから抱けた。これからも大事にしていく』って・・」
直人「お前どっかおかしいぞ。熱でもあるんじゃないか?
    今日は早く寝ろ。いいな、直也」

旅の間、直也は直人に言われ放題振り回され放題だったので、
東京に戻ってから反撃に出たのだった。
兄が照れまくる言葉をたくさん投げ掛け、
メロメロにしてしまうという作戦だった。
案の定直人は照れまくったが実力行使に出た。
直也を引き摺るようにしてベッドまで連れてきた。

直也「ちょっ、兄さん、何するの?やめてよ!」
直人「いいから、もう寝ろ」
直人は直也をベッドの上に引き上げ、押さえつけてしまった。
直也「眠くなんかないよ!」
直人「お前はさっきから変なことを口走ってばかりいる。
    妙な体験をしたから疲れているんだ。だから早く寝た方がいい」
直也「じゃあ、僕を寝かしたかったら子守唄歌ってよ」
悪戯っぽくニヤッと笑った。
直人「バ、バカ。そんなことができるか!」
直也「できそうにないから言ったんだ」
直人「ケッ、ヤな奴!」
直也は鼻でククッと笑った。
直人「子守唄だと?だいたいお前、自分がいくつだと思ってるんだ!」
直也「21だよ。クククク・・兄さんたらマジになっちゃって・・」
直人「うるさい!お前さっき俺にできそうにないと言ったな?
    本当にできないかどうか、
    耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ!」
直也「(えっ?ウソ!やるの?!)」
直人「むかし、むかし、イギリスにソドーという島がありました」
直也「に、兄さん、何を?」
直人「昔お前が寝る前によく読んでやった
    『きかんしゃトーマス』だろう?忘れたのか?」
意外な展開に直也は瞬きも忘れる程だった。
直人は構わず続けた。
直人「島には、トップハムハット卿という人が経営する
    ソドー鉄道があり、機関車がたくさん走っていました。
    その中に、トーマスという小さなタンク機関車がいました。
    空色のボディに6つの車輪。小さなボイラーに小さな煙突・・」

直人は直也が横たわるベッドの端に座って滔滔と語り続けた。
あれから10数年たった今でも、
不思議なことにストーリーを忘れていなかった。
(に、兄さん・・・)
研究所に入る前、いや入ってからでも直也は就寝前、
直人にせがんでトーマスシリーズを読み聞かせてもらっていたのだ。
当時が懐かしく思い出された。
懐かしさのあまり、だんだん胸が熱くなってきた。
目の縁に熱いものがこみ上げてきて唇をかんだ。

直人「トーマスはいつも元気いっぱい野山や海辺を走り回っていました。
    ある日、トップハムハット卿が言いました・・・
    おい、直也。聞いてるか?」
直也「うん。聞いてる」

その後も直人は淀みなく語り続けた。
直也はしだいに4、5才の頃の自分に引き戻されていくのだった。
まだ声変わりしていない兄の声と幼い自分。
話は面白いのだけれど、途中で眠ってしまうのが常だった。
(あの時はごめんね。読んでもらっているのに、途中で寝てしまって。
でも今日は最後までちゃんと聞くよ)
しかし、その思いは今日も実行されなかった。
淡々とした兄の声がα波を刺激し、
だんだん声が遠くに聞こえるようになって、
不覚にも瞼が落ちてしまったからだ。

直人「アニー、クララベル行くよ!
   ・・・ん?おい、直・・・ま~た寝ちまったのか。
   人が折角話してやってんのに、昔からいつもこうだ、お前は」
直也の寝顔を覗き込むと、その頬を軽く叩いた。
直人「直也、おい、起きろ」
その時、閉じられた目元に滲む涙の跡を見つけた。
直人「この話って、泣くような話か?変な奴」
そう言ってクスッと笑った。
靴を脱がせ、布団を掛けてやった後、自分もベッドに横になった。
直也の寝顔を再び見ながら
「いい旅だったな、直也」と呟いた。    

---完--ー









*CommentList

八つ墓村迷宮案内いい旅夢気分 その8

                ~海と砂~

         <配役>金田一耕助:霧原直人
                寺田 辰弥:霧原直也

2人を乗せた汽車は終点の米子駅に滑り込んだ。
同じ車両の他の客に直也が接触するのを避ける為、
他の客が全員通り過ぎるのを2人は座って待っていた。
「よし。俺達も行くか」
「うん」
直人に続いて立ち上がった直也だったが、
戦時設計の安普請の座席に歩行を阻まれてしまった。
というのは、
腰のリボンの端がいつの間にか座席と壁との間に挟まれていることに
全く気付かずに立ち上がってしまったからだ。
「あ!・・」
「どうした?」
「リボンが座席に・・・」
「今取ってやるから待ってろ」
トランクを座席に置いた直人は、直也のそばに座り込み、
リボンを破かないように慎重に隙間から引き抜いた。
「よし、取れた。もう終点なんだから、焦らなくても大丈夫だ」
「うん。ありがと」
2人は乗降口に向かった。

例によって直人は直也より先に降り、地面にトランクを置くと、
直也が降りるのをエスコートした。
直人に導かれてステップを降りていた直也だったが、
3時間の長旅が脚に来ていたのか、
先程のリボンのことで内心焦っていたのか、
はたまた先程泣いたので、
涙顔の余韻がまだ残っているのではと心配したのか、
足元への注意が疎かになった。
最後のステップからホームへと降りる時、
ステップの縁に爪先が引っ掛かりバランスを崩してしまった。
「うわ!!
急いで直人はその体を抱き留めたので、
直也は直人の胸に倒れ込む形となった。
後ろの車両から降りて来てホームを歩いていた乗客達が、
抱き合う2人をジロジロ見ながら通り過ぎて行った。
「ご、ごめん」
「気を付けろよ」
恥ずかしそうに直也は兄から体を離した。
しばらく無言で改札へと歩いていたが、
機関車の横に来ると直也が見上げて言った。
「わあ、機関車って大きいんだね。そばで見ると凄い迫力」
「ああ、俺もこんなに真近で見るのは初めてだ」
直人も立ち止まる。
「やっぱり、黒いんだね。
 『きかんしゃトーマス』は絵本だから青いんだ」
「あんなに青かったら、石炭ですぐに汚れて困ったことになるさ」
改札で切符を渡すと、2人は駅内のコンコースの椅子に座った。

米子は江戸時代城下町として栄えた都市で、
新見よりだいぶ都会で駅舎も大きい。
「どうする?ここから境線に乗って、弓ヶ浜という駅で下りると、
 日本海が見られるらしい。
 さっき昭子の父親から聞いた。行ってみるか?」
「境線の接続はどうかな?」
時刻表を見たところ、単線の為本数が少なく
1時間近く待つことになりそうだった。
「兄さん、もう1つ我儘言っていい?」
「何だ?」
「僕、砂丘も見てみたい」
「鳥取砂丘か?ここからはもっとずっと大阪寄りだな。
 境線往復して日本海見て、それから砂丘に行くとなると
 暗くなってしまいそうだな・・・『力』使うか・・・」
「えっ、いいの?」
「俺だって、日本海も砂丘も見てみたいさ。
 太平洋さえまともに見たことないからな。
 ま、ここで『力』使う訳にいかないから外に出よう」

駅を背に左側の方に、大きな木があるのが見えた。
「あの木なら何とかなるだろう」
そして、2人はその木の下に行くと裏側に回った。
直也は直人の腕を掴んだ。直人が気を集中しようとした刹那、
直也の首筋から何かが背中に入り込んだ。
「うわあ何か背中に入った!!」
「何っ!?」
「やだ、虫だよ!音がする。取ってよ、兄さん。早く!」
「何だと!よりによってこんな時に」
「刺されるよ!早く取って。お願い!」
半べそ状態で抱き付いてきた。
直人は辺りを見回して人目がないことを確認すると、
直也の背後に回り、ワンピースのボタンを順にはずしていった。
背中の真ん中まではずして、右肩をむき出しにしたところで
虫は飛び去って行った。
「大丈夫だ。別に刺されていない」
直人はまた元のようにボタンを留めてやった。
「大丈夫だ」
もう1度言って、安心させるようにそっと抱き締めてやると、
ぎゅっと縋り付いてきた。
「直也、行くぞ。しっかり掴まってろよ」
数秒後、彼らの姿は米子から消えた。

2人は人知れず弓ヶ浜に着いた。
「うわぁ~海ってこんな感じなんだ
「海という物を初めて見るんだな、俺達」
「うん。研究所は森の中だったしね」
「あそこに入る前も出てからも、それどころじゃなかったからな」
「綺麗だね、この浜辺。それに物凄~くいい眺め!
「そうだな。空が広い。海も広い」
「兄さん、向こうに見える山は・・?」
「大山だろ。晴れてるから、こんなにはっきりと見えるんだな」
「凄く綺麗だよ、ここ。僕、気に入ったよ、この場所!!」
「ああ。思い切って来て良かったな」
「うん
直人を見上げニッコリと微笑んだ。
微笑むといつもの黒目がちな瞳がけぶるようになり、
表情全体がほんのりと美しく映った。
車中に続いて、直人はまたドキリとさせられた。
動揺を隠すように、
「俺は荷物番してるから、お前遊んで来ていいぞ」
と言うと、
「え~、兄さんも一緒に行こうよ~」
と両腕を絡めて来て、直人の腕を引っ張った。
「荷物なんか大丈夫だよ」
「そうはいくか」
直也は先に波打ち際まで歩いて行くと、片手を水に差し入れた。
「あはッ、冷たい!」
そして、濡れた指先をペロッと舐めた。
「海の水って、ホントにしょっぱいんだ」
「どれ?」
直人も水に触れて、直也と同様のアクションをした。
「本当だ」
「ね?」
と直人の顔を覗き込んだ。
「波って、本当に寄せては返すものなんだね」
「そういうことなら・・」
直人は靴を脱ぎ裸足になり、ズボンをたくし上げ海に入ってみた。
「ハハハ・・面白れェこの感じv」
「何が?」
波が引く時の足元の感じが、直人にとっては面白いらしい。
「お前も入ってみろよ」
「え~・・じゃ僕も・・」
直也も裸足になって、兄と同じことをしてみた。
「あッホント!何とも言えない不思議な感触
「だろ?」
波と戯れる2人の頭上をカモメが飛び去って行く。

10月ともなるとさすがに海水は冷たく、
しばらく浸かっていると足がだんだん冷えてきた。
「先に上がってるぞ」
「うん。僕は記念に貝を拾ってるね」
直也は服を濡らさないように巧みに波をよけながら、
浜辺に波と共に打ち寄せる貝を集めては帽子の中に入れていた。
そんな直也の様子を見ているうちに、
(こんなに開放された気分になったのは、
御厨から送られて来た薬を飲んだ時以来だな)
と直人は思った。
(何故こんな時に、あんなことが思い出されるんだ?)
と苦々しく思ったが、
(こっちは副作用がないんだから、安心していられるぜ)
と思い直して立ち上がった。
もう1度直也を見ると、貝集めに夢中になっていて
元いた場所からだいぶ離れてしまっていた。
(ったく、ガキみたいでしょうがねえなあ。
それにしてもあいつまだ裸足だけど、足が冷たくねえのか?)
と思ったところ、直也が直人を振り返って叫んだ。
「兄さ~~ん、足が冷たくなってきたーーッ!靴持って来てよぉ~~!」
「何考えてんだ、お前は!ガキみたく後先考えずに遠くへ行くからだ
「そんなこと言わずにさ~、お願いだよ~!!
「ダメだ、甘ったれるな」
と言いながら、直也の方に近づいて行った。
「もぉ~ケチぃ~~
やがて佇む直也のそばまでやって来た。
「靴ぐらいこっちまで持って来てくれたっていいじゃな・・」
その刹那、直人は何も言わずに直也の体を抱き上げた。
「ちょっ・・に、兄さん、下ろしてよ。恥ずかしい
「いいから、気にするな」
「気にするなって・・誰かに見られたら恥ずかしいよ」
「大丈夫だ。誰も見ちゃいない」
おかまいなしに、直人は大股に歩を進めて行く。
「やだよ。下ろして!」
「お前は女の格好してるから、傍目には女に見える。心配ない」
「そういう問題じゃ・・」
もはや何を言っても無駄と悟り、直也は直人の首に腕を回した。

トランクのそばに直也を下ろして、
直人は浜辺に置き去りにされた靴を取りに行った。
「ほらよ」
「ありがとう」
「貝は採れたのか?」
「う、うん。採れたよ」
直也にはまだ気恥ずかしさが残っていた。
「さっき地図を見ていたら、
境線が走っている所は、ちょうど岬のように海に突き出ているんだ」
「じゃあ、ここは岬の一部っていう訳?」
「そうだ」
「岬か・・僕達、岬にいるんだ・・」
海面には、秋の午後の光が差してキラキラ輝いている。
水平線の彼方には、大山がくっきりとそびえ立っている。
その様子を浜辺に座ってしばらく眺めていた。
心が洗われていくような気持ちがした。
(この感じはやはり岬老人が・・)と思えてくるような心地よさ。
「そうか・・岬さんは植物エネルギーだけでなく、
 海洋エネルギーの中にも存在してるんだね」
「ああ、俺もそう考えた。
 ということは、俺達は岬老人に導かれてここに来たってことか?」
「そうかもしれない。人の意識はどこかで繋がっているというから」
その後もややしばらく海を眺めていたが、
「次行くか?」
直人が言うと、直也は兄を見て黙って頷いた。

数10秒後、2人の体は鳥取砂丘にあった。
2人が砂丘を見渡すと、小高い丘が見えた。
「登ってみようよ」
「そうだな。違った景色が見えるかもしれない」
しかし傍目には容易く登れそうに思えた高さだったが、
砂を踏みしめて登って行くのは、思った以上に体力を要した。
「結構きついな。大丈夫か、直也?」
「うん。何とか・・
 兄さん、僕自分で荷物持つよ。もう男に戻ったんだから」
「そうか・・じゃ任せた」
「ね、ゆっくり行こうよ」
「ああ。そうしよう」
そうして2人は何とか丘を登りきったが、
10月というのに、頂上に辿り着いた時には汗ばむ程だった。

「熱い!疲れた!」
「砂を甘く見過ぎたね」
「まさかこんなにきついとは予想できなかった」
と言いながら見下ろすと、眼下に日本海が広がっていた。
「うわあここでも海が見えるよ。凄い、凄過ぎる!!」
「疲れが吹っ飛ぶぜ、この景色は!!」
「弓ヶ浜は湾だから、割と穏やかな感じだったけど、
 ここはモロに外海だから、ずっと激しい感じだね」
「同じ日本海でも全然顔が違うな」
「うん」
その時、風が吹いて来た。火照った体には心地良い風だった。
「ア~風が気持ちいい~ッ
直也は顎を上げて目を閉じた。
直人は砂の上に横になり、
「極楽だ~ずっとここにいたくなった~!!」
と長い手足を伸ばした。
「兄さんたら・・(笑)夜になったらここ、きっと真っ暗闇で怖いと思うなあ」
風はしばらく吹いていた。
風が通った後、ふと麓を見た時、直也は砂の上に規則的な紋様を見た。
「あ、あれは・・何?」
「どうした?」
「起きて、兄さん。ねえ、見て。下を見て!」
直也に促され体を起こした直人は、
直也の横に並んでその指差す方に目を向けた。
「あれは・・風紋だ」
「ふうもん?」
「そうだ。風が作る砂のさざなみだ」
「何て、神秘的な・・
自然が織り成す美しい光景を前に、
2人は言葉を発することなくしばらく佇んでいた。

「翔子と最後に別れたのは砂丘だった。翔子が作った砂丘だったけど」
直也が沈黙を破った。
「だからお前は砂丘に来たかったのか?」
「うん。それもある。でも純粋に、砂丘ってどんなものか興味があった」
「砂丘でお前は生身の翔子に触れることができた」
「でも、あれが最初で最後だったよ」
「そう。最初で最後だった」
直人はしゃがみ込むと、片手で砂をすくった。
―殺らなければ自分達が殺られる。
  アークの3人に追い詰められて、直人は生まれて初めて『力』で人を殺めた。
  意識を失いそうになるほど心が沈んで行きかけた時、
  翔子が砂丘に2人を導いた。彼女の意識が作った砂丘に。
  そして砂がいつの間にか死体を消し去っていた―
指の間からこぼれ落ちる砂を見ながら、
直人は“その時”のことを思い出していた。
(兄さん・・)
直也はその思いを読み取ると、静かに直人を見つめた。
「何か感じないか?翔子の周波数とか」
直人は顔を上げると直也を見つめ返した。
「今のところは何も感じない」
「そうか。だが俺は翔子は絶対にいると思う。
 さっきは岬老人を感じた。そして今度は翔子を感じる番だ。
 2人は俺達をいつも見守っているはずだ」
直人はテレパシーの受信能力は低いが、
この時は何かピンとくるものがあった。

2人は砂の上に横になった。
そうしていると、まるで時が止まっているかのように感じた。
と同時に、砂の中に引き込まれていくような感覚もおぼえた。
直也の脳裏にも、“その時”のことが浮かんだ。
―「もう私はこの体を保っていられない」
  切なそうな声で囁きながら直也に凭れて来た翔子。
  いつも自分達の危機を救い導いてくれた強い面影はそこにはなかった。
  か弱い1人の少女に戻っていた―
耳元で聴いたか細い声と、
腕の中に感じたその肢体の柔らかな感触は、
今でもはっきりと体が覚えていた。
(翔子。君は今どこにいるの・・?)
その時だった。    
時を制したような翔子の表情が浮かんだ。
(ああ、翔子。やはり君も僕達を導いてくれたの・・?)
そして翔子が黙って頷くのがわかった。
「今感じたよ、兄さん」
「そうか・・・」
あとは2人の間に言葉はいらなかった。
午後の光が夕日へと変わりつつある頃、
(岬老人と翔子を感じた俺達《僕達》の旅はそろそろ終わりに近づいている)
と感じて、ふとどちらからともなく相手の顔を見つめた。
2人の目が合った。
「帰るか・・」
「うん」
直也が兄の手を握った。直人も握り返してきた。
反応してくれる相手の存在が嬉しい。
互いの手の温もりを感じながら、2人は時空間を越えて行った。

                               








*CommentList

八つ墓村迷宮案内いい旅夢気分 その7

                     ~米子へ~

            <配役>金田一耕助:霧原直人
                   寺田 辰弥:霧原直也
                  
                  所轄の刑事達

結局直人の足に合う靴はなく、
辰弥として直也がはいていた靴の踵をつぶしてはく羽目になった。
店を出ると、兄弟は駅に向かった。
「兄さん、大丈夫?」
「何が?」
「さっきボーッとしてたから」
「俺なら大丈夫だ。心配するな」
と言ってはみたものの、
直人には心の動揺の余波がまだ少し残っていた。
「でも、初めより目立つんじゃない?この格好。
 それに足元がスースーするよ」
「大丈夫だ、直也。堂々としてろ。でも女らしくしろよ」
「え~女らしくって言ったって、わかんないよ、僕」
「先ず、僕と言わずに私と言え。
 それと、××だよじゃなくて××だわと言うんだ」
男女のカップルと見せる為に、
直人は直也の分のトランクも持ってやった。
「うん、わかった。トイレはどうしたらいいの?」
「女子トイレに入れ。女子はどうせ個室なんだから、
 中で何やっていてもわかりっこないだろう」
「それじゃ変態だよ」
「『変態だよ』じゃなくて、『変態だわ』だろ?
 女を演じ切るんだ、直也」
「そんな~。駅に着くまで男のままでいいでしょ?」
「いや、予行練習だ。誰が聞いているかわからないからな」
「じゃあ、僕、じゃなくて私の名前は何て呼ぶつもり?」
「あ?あ~直子でいいんじゃないか」
「やだ・・わ。そんな安直なのいや」
「んじゃあ、何て呼ばれたいんだ?」
「ん~・・翔子」
「は~ん、お前翔子のこと好きなのか?」
「そういうんじゃなくて、とっさに浮かんだのが翔子だっただけ!」
「へっ、わかったよ。しょうがねえな。呼んでやるよ。翔子ちゃん!」

「ねえ、兄さん」
「『直人さん』だろ!」
「さっきの店は昭子さんだけど、旅館の方は美紀子さんでしょ」
「ああ、それがどうした」
「ショウコとミキコ。美紀じゃなく美紀子だけど。
 これって、単なる偶然かな?」
「あの2人が、双海翔子と立花美紀の前世だとでもいうのか?」
「そういう感じはないけど。
 でもあの2人が同じような名前で、僕・・私達の前に現れたのには
 何か偶然とは思えない力が働いているような気がして・・」
「確かに不思議だとは思うが・・」
直也が突然立ち止まった。
「ん、何か感じたのか?!」
「女を演じ切れと言うなら、女に合わせてもっとゆっくり歩いて!
 ぼ、私ははいたことのない靴をはいているから歩きづらいの」
「あ・・ああ、わかった。わかったよ」
と言うなり、直也の手を握って引っ張った。
大きな手の温もりを感じ、直也はつながれた部分をジッと見つめた。
「あ・・あの・・この時代はカップルといえども、
 こうして大っぴらに手をつないで歩かないんじゃないかな?」
「ああ?戦後6年経っていてもまだ駄目なのか?
 進駐軍の影響を受けて、これ位やってるはずだろう」
「都会ではね。こうした地方じゃ戦後6年位じゃまだまだ・・よ」
「ふーん、そんなもんか」
と直人はゆっくり手を離した。

そうして2人は、ゆるゆる歩いているうちに駅に着いた。
直人は直也をコンコースの椅子に座らせて切符を買いに行った。
「米子まで2枚。あの、米子までは何時間かかりますか?」
「ん、あ~大体3時間じゃのぉ」
ゆっくりとした動作で、
中年の駅員は当時の一般的な切符(硬券)を差し出した。
「汽車は20分後に来よるけ~」
「そうですか。有難うございます」

やがて、蒸気を吹き上げる音と鉄輪の音とを響かせながら
機関車が入線して来た。
当時はまだバリアフリーという発想が全くなく、
ホームと客車との間にかなりの段差があり、
客車の乗降口にも1段ステップがあった。
直人はまずトランク2個を先に客車のデッキに乗せ、
次に自分が先にステップに片足を掛け、
直也に向かって手を差し伸べた。
直也は慣れない仕草ながらも片手でワンピースの裾を持ち上げ、
もう片方の手を兄の手に重ねた。
直人はそれを引っ張り上げてエスコートした。
「な、手を握るのもこれ位はいいだろ?」
直人の体の近くまで引き上げられた直也は、兄を見上げながら言った。
「流石だね、兄さん。男になり切ってる!」
「アホか。俺はなり切らなくても男だ。それと、『兄さん』はやめろ」
と言いつつ、トランクを持ち上げて客車の扉を開けた。
2人は車両の真ん中辺りの座席に腰を下ろした。
直也が窓際、直人が通路側に座った。

網棚に荷物を置くと、直人は洗面所に行った。
髪を水で濡らして、オールバックスタイルにした。
座席に戻ると、「な、こうすれば別人だろ?」と言った。
「芸が細かい・・のね」
「少しでも化けないとな。捕まりたくないだろう、翔子」
と直也の方を見てニッと笑った。
いきなり翔子と呼ばれた直也は驚いた。
「あ、ああ・・そ、そ、そ、そうね」
直人はフフンと鼻で笑った。
昭和26年当時の客車は、戦時設計と戦後設計との過渡期に当たる為、
2種類の客車が使われていた。
2人が乗ったのは戦時設計の方で、
窓の建て付けが悪く座席も硬かった。
座席の緑色の布は、人がよく座る部分が擦れたような状態だった。
座席の枠や窓枠、天井や梁や床は材質が木であったが、
年季が入って飴色になった具合が
逆にレトロな雰囲気を醸し出していた。

伯備線は岡山と米子を結ぶ鉄道であるが、
県境は中国山地を越えて行く為、山と山の隙間を縫うように汽車は行く。
折から秋である為、山々の木々は紅葉の真っ最中であった。
「見て見て、兄さん!あちこち紅葉していて凄く綺麗だね」
初めて鉄道に乗ったせいか、直也ははしゃいでいる。
「おい、女を忘れるなよ」
「あっ、川だ。川を渡るよ」
直也は兄の指摘を全然聞いていない。
「そりゃ川があれば渡るだろう」
脱力したように直人は言った。
川に架かる橋は一部鉄橋もあるが、地方の鉄道である為、
橋げたの部分がレンガでできた物がまだまだ多い。
大きな弧を描きながら、
蒸気機関車がレンガ橋を渡る風景はなかなか絵になる。
「何かカレンダーになりそうな景色だね」
「ああ」
「下手に電車で走るより、蒸気機関車の方が雰囲気に合ってるよ」
「お前随分嬉しそうだな」
今まで車窓を眺めていた直也は兄の方を振り返った。
「だって、初めて乗ったんだもん。
 21年生きてきて初めて鉄道に乗ったんだよ
「そうだな。お前は初めてだもんな。
 やっぱり思い切って乗ってよかったな」
「うん。有難う、兄さん。
 兄さんが乗ろうって言ってくれたんだものね
と言ってにっこりと微笑むと、また車窓に視線を移した。

「・・あ、ああ」
「兄さん」と言っていることに対して指摘するのも忘れるほど、
直也の姿には直人を惹きつけるものがあった。
(何だ、何だ。やたら直也が眩しく見える。
 ヤバイ。ヤバイ。マジでヤバイ。
 いや、これは女装のせいだ、絶対。絶対そうだ)
実際、車両のレトロな雰囲気に、
直也のモガスタイルはこれ以上にない位似合っていた。
はしゃいで気分が高揚して、目の虹彩がグッと開いた為、
瞳に潤いが増し、黒目の部分が綺麗に映っていたとも考えられる。
己の心の動揺を打ち消すように直人は話題を転換した。
「そ、そろそろ飯にしないか、直也」
「あ、直也って言った!教育的指導だよ、兄さん」
「何言ってんだ。お前なんかさっきから聞いてりゃ、
 指導どころか警告じゃないか。
 あと1回兄さんと言ったら
 反則負けで1本というところまできてるんだからな!」
「勝ち負けあるの?これ」
「ある。負けたら罰ゲームがある」
「え~!そんなの聞いてない。でも、どんな罰ゲームなの?」
「フフン。聞いて驚くな。メイドの格好をして
 御主人様の言うことに1日従わなくてはならないのさ」
「いやだよ。そんなオタクっぽくて、屈辱的なの。
 それに僕は兄さんのメイドの姿は・・ちょっと遠慮したい」
「けっ、言ってくれるぜ。俺だって弟の前でなんかしたくないね。
 罰ゲームの話は冗談だよ、冗談。ほらよ、飯」と
トランクから竹の皮の包みを出して手渡した。

2人は、宿の主人が作ってくれたおにぎりの昼食を摂った。
「旅先で食べる御飯は美味しい・・わ」
「ああ、言えてるな。普通ならここで、お茶が欲しくなるところだが」
「美紀子さんからもらったサイダー・・」
「栓抜きがないから、東京まで持ち帰りだな」
「缶とかペットボトルはこの時代にはないし、
 みんな飲み物はどうしてたのかな?」
「水筒持参とか?」
「まさか!」
「いや、50年前だからわからないぞ」

そうこうしているうちに、汽車は備中神代という駅に着いた。
「あ、ホームでお弁当売ってる!」
「何!よし、お茶があるかどうか見て来る」
と直人は立ち上がった。
「急いで。乗り遅れないでね」
直人の背中に向かって言った。
ホームでは大きなやかんに入れたお茶を、
売り子がアルマイトのような茶器に注いでいた。
直也が見たところ、
どうやらそれは弁当を買った者へのサービスのようだった。
やがて、お茶と弁当を手にした直人が直也のそばにやって来て、
窓を開けるようにと顎をしゃくった。
直也が建て付けの悪い窓を開けると、窓の桟にお茶の容器を置いた。
「これは終点に着いたら回収するんだとさ」
そして2人分の弁当を持って座席に戻って来た。
「兄さ、直人さん、まだ食べるの?」
「いや、昭和26年土産さ。お前の分も買ってある。
 トランクにしまうぞ」
「あ、うん。ありがと」
直也はアルマイトの容器のお茶をしげしげと眺めた。
「こうやってホームで売ってるんだ」
県境にさしかかり中国山地に入ろうとしているのだろう、
トンネルがやたら多くなった。
と同時に満腹になりお茶で一服したせいか、
2人はにわかに眠くなってきた。
そして、どちらからともなく昼寝をした。

ガタンと大きな音と揺れを伴って汽車は停車した。
窓の桟に凭れて眠っていた直也が目を覚ました。
目が覚めたら車窓の風景が一変していた。
もう山間ではなく平野部に出たようだ。
車内の乗客の数もいつの間にか増えていた。
「どこ、ここ?ん~この駅なんて読むの?××おおやま?」
「だいせんだろ」
直人も目を覚ました。
「鳥取に入ったか?」
「うん。米子までもうすぐ?」
「もう山を抜けてるから、あと2駅3駅で着くだろう。
 地方だから駅間が長いけどな」
やがて車両の扉を開けて、目付きの鋭い男性が数人乗り込んできた。
直也のアンテナがすぐに反応した。ハッとして直人の腕を掴んだ。
「あの人達、警察だ・わ」
「な、何
「間違いない・わ。どうするの?」
見れば、車内の人間を1人1人確かめるようにゆっくりと歩いていた。
「フン。いよいよ来やがったか!」
小声で直人は言い、
直也を安心させるようにその手の上に自分の手を重ねた。
「テレポーテーションするの?」
不安そうな目をして直人を見上げた。
「まあ、見てろって」
言い終わると、自分の腕を掴んでいない方の直也の手を引き寄せ、
その体を腕の中に抱き締めた。
「あっ!」
「声を立てるな」
「だって・・」
「俺達はカップルだ。男と女なんだ。お前もそれらしく演技しろ!」
耳元で囁く。
何度も兄の腕に抱かれてはきたが、
人前でのこんな唐突な抱擁には混乱するばかりだった。
本当に青天の霹靂とはこのことで、直也は思考が停止してしまった。
「俺達を守る為だ」と言って、直人は力を入れてギュッと抱き直した。
思考は停止しても、兄の腕の温もりを体が覚えていた。
それを感じると、直也は少し安心できた。
そして、無意識に直人の背に腕を回した。

その時、「もしもし、お取り込み中すまんがね」
と言って、初老の刑事らしき男性が直人の肩をトントンと叩いた。
「はい?」
直人は直也を抱いたままで、顔だけ刑事の方を振り仰いだ。
「チクッと顔を見せてくれんかのぉ」
「ああ、はい。顔を見せればいいですか」
直人は直也を抱くのを止め、元のように座席に座り直した。
刑事は手配書の絵と2人の顔とを交互に見た。
「男と女の連れじゃし、違うのぉ」
「違っちょりますね」
部下らしき若い刑事が言った。
「ちょっと人を探しちょるけ~、邪魔したのぉ」
「御苦労様です」直人が言うと、
「御苦労様です」と直也もリフレインした。
刑事達は他の乗客達を確かめるとやがて車両を出て行った。
扉の向こうで若い刑事が聞こえよがしに話すのが漏れ聞こえてきた。
「ったく、近頃の若い奴らちゅうたら、
 進駐軍の影響か何だか知らんけ~ど、
 真っ昼間からベタベタしちょ~て、腹が立ちよりますのぉ!」
それを聞いて「作戦成功」と直人はほくそえんだ。

直也はというと、直人の腕をまだ掴んでいた。
「もう大丈夫だ。警察は行った。俺達は上手く化けられたんだ」
しかし直也は掴んだ手を離そうとしなかった。
「・・直也?」
「兄さん。もう僕は元に戻ってもいいよね?直也に戻っても・・」
直人を見上げる直也の瞳から涙が一筋零れ落ちた。
「ど、どうしたんだよ?お、お前、演技過剰だぞ」
思いも寄らない涙に直人はうろたえた。
「怖かったのか?」
直也の肩を抱き寄せた。
涙を拭きながら直也はかぶりを振った。
「悪かった。急にあんなことをして。お前を泣かすつもりはなかった」
直人は直也の頭に手をやり、自分の胸にグッと引き寄せた。
「違うよ。兄さんは悪くない」
くぐもった涙声が聞こえた。
直人は人目を気にすることなく直也をしばらく抱き締めていた。

「ごめん。急に泣いて」
「俺の方こそ悪かった。もう直也に戻っていいから」
直人は労わるように言った。
「うん」
コクンとうなずく。
「兄さん」
「ん?」
「あの時・・抱かれてる時、いつもの兄さんの温もりを感じたら、
 何か涙が出てきちゃって・・・ 
 どんな時代でもどんな状況でも兄さんは僕の隣にいる、
 僕は一人じゃないんだ、
 兄さんの隣にいられることがどんなに僕にとって大事か、
 あの時改めて強く思ったよ。
 もう、演技止めてもいいよね?
 女の子のふりをしなくても、兄さんの弟に戻ってもいいよね?・・」
潤んだ黒目がちの瞳と目が合った。
直也がいじらしく健気に思えて、
直人はまだ目元に残る涙をそっと拭ってやった。
「俺はあの時、演技だからってお前を抱いたんじゃない。
 直也だから抱いた。直也だから抱けたんだ。
 俺にはお前が必要だといつも思っているけれど、
 今回の旅で、俺は今まで以上にお前を大切に感じた。
 これからもずっと大事にしていくから」(女装も可愛いけどな・・)
「兄さん・・
高らかな汽笛の音が聞こえた。

                               ~つづく~










八つ墓村迷宮案内いい旅夢気分 その6

                   ~古着屋~

             <配役>金田一耕助:霧原直人
                    寺田 辰弥:霧原直也
                   古着屋の主人
                   昭子

美紀子が描いてくれた地図を頼りに、兄弟は古着屋に向かった。
昨日新見に着いた頃は既に薄暗く、
街の様子もおぼろげにしかわからなかったが、
日中街に出てみると、この時代の空気を強く感じることができた。
道路は舗装されておらず土のままでデコボコ。
乗用車はまだまだ少数派で、
荷物運びの馬車がのんびりと往来していた。
電柱は木の電柱。
そこに『○○丸』と書かれた漢方薬の宣伝広告や、
『サンフランシスコ講和条約万歳』と書かれたアジビラ、
『狂犬病の予防接種を受けよう』
『軍人恩給の後期分支給は××日まで』
などと書かれた役所からの知らせ等が貼ってあった。
日曜日の為か、
道行く人々の顔もウキウキとしているように見受けられた。
この時代極めて長身の直人を、すれ違い様時折見上げる者はいたが、
兄弟を訝しげにジロジロ見る者は全くいなかった。
「サンフランシスコ講和条約っていうけど、
 少し前まで日本は独立国じゃなかったんだ」
「ああ。米軍占領下だったってことだ。Occupied Japanてやつだな。
昨日宿のカレンダーを見たら、今は昭和26年だってことがわかった」
「昭和26年?えーっと西暦に直すと1951年だから、
 あ、もしかして今、朝鮮戦争の際中?」
「そうだな。米軍も日本占領どころじゃないという訳だ」
2人が映画館の前を通りかかると、長蛇の列が出来ていた。
ポスターを見ると『東京キッド・出演美空ひばり』とあった。
「地方だから封切りが何ヶ月か遅れだとしても、
 これはリアルタイムの上映だな」
「わあ、次回上映は『黒澤明監督の羅生門』て書いてある!」
「あれはこの時代の映画だったんだな」
「凄い時代の風を感じるね」
「この前のテレポーテーションの時は京都だったが、
 ずっと鞍馬山に籠ってたから、時代なんか全然感じなかった」
「ホントそうだね・・・あっ、郵便局が見えてきたよ、兄さん」
やがて2人は件の古着屋に着いた。

「ごめんください。あの、駅前の旅館の紹介で・・・」
ラジオからであろう、笠置シズ子の『買い物ブギ』が流れていた。
「ああ、おいでんせ~。聞いちょりますけ~」
と言って、主人はラジオを消して兄弟の方を振り返った。
「うわ!大内山が来よったかと思うた。
 おきゃ~さん、で~れ~背ェが高うけ~ど、6尺越しちょ~け~?」
(大内山って誰だ?それに6尺って何cmだ?えーっと確か・・
 1尺=約30cmだったか?)
直人は頭の中で計算しつつ、
「ええ、越えてます」
と平静を装いながら答えた。
「いや、初めて会うたおきゃ~さんにカバチ言うて、
 で~れ~失礼しましたのぉ。
 この夏の巡業で、大内山この目で実際に見ちょったら、
 まあデカイのデカクないのって・・じゃけ~どそげ~に高いと、
 見える景色も随分違っちょりますじゃろ?」
「ええ、まあそうですね。・・
 それで、その大内山と同じ位の身長の俺に合う服はありますか?」
直人は世間話に曖昧な返事をしつつ、いきなり本題を切り出した。
「それと、こっちの俺の連れにも・・」
直也の方を振り返り、親指をクイクイっと動かした。
「本来は女なんですが、訳あって男の格好してるんです。
だから女性用の服を・・」

あまりの直人の暴言に直也は言葉を失った。

「こん人が女の人!?」
店の主人も驚きに目を丸くした。
「ええ。本当です」
(兄さん!何言って・・・)
直也は眩暈がしそうになった。
「女の人の服ですかいのぉ?
 わしではチーっとわからんけ~、嫁を呼びますけ~ね」と
店の奥に向かって怒鳴った。
「おい!ショウコ。おかんいちょるか?」
「ショウコ
兄弟は驚いて顔を見合わせた。
「ああ、昭和の『昭』書いてショウコ言いますけ~。
 よく、アキコと間違われるんじゃ」
「おかんじゃったら、出かけとるけ~。コロの散歩に行っちょる」
奥からショウコらしき少女の声が聞こえた。
「あいつの散歩は長いけ~、いつ帰って来よるかわからんのぉ。
 そうじゃ。ワレでもええけ~、昭子チクっと手ごうてや。頼むけ~」
「いやじゃ」
「なあ、じゃったら、後で美空ひばりの映画見に行ってええけ~」
「ほんまか?おとん。じゃったら、手ごうてもええよ」
と現金な少女昭子は店に顔を出さんとしていた。
兄弟はどんな少女が現れるのか興味を持って待っていた。
「何、手ごうちょったらええ・・・」
自分の所の店に凡そ似つかわしくない客を認めて、
昭子はハッと口をつぐんだ。
あの翔子のような長い髪の少女を2人は想像していたが、
昭子は顎のラインで切り揃えられたボブヘアで、
片側の髪を耳に掛けていた。
はっきりとした目鼻立ちの中で、
リスのようなクルンとした瞳が印象的だった。
「あ~昭子のぉ、こげ~のおきゃ~さんのぉ、
 ホンマは女の人じゃけ~ど、深う訳あって今は男の格好しちょる。
 じゃけ~、おなごはんの服探すの手ごうちょくれ」
「ええ!こげ~おきゃ~さん、ウチと同じおなご~
(ヒエ~店の人達、僕が女だって完全に信じてるよ!どうしよう・・)
直也は助けを求めるように直人を見たが、
軽く顎をしゃくって(上手くやれよ)
という感じで目配せをしただけだった。

(兄さん、僕はもうどうなっても知らないからね。
 喋ったら絶対男だってバレるよ)
先程の昭子の問いかけに対し、
あまりに高い声を出しても不自然と思い、
「よ、よろしくお願いします・・」と怖々返事をした。
「わあ!背ェもスラーッと高こ~て声も低く~て、
 ホンマ宝塚歌劇の男役はんのようじゃね~!
 うそ~ほんま~もんげ~素敵じゃ
疑うどころか目をキラキラさせて飛び上がらんばかりに喜んでいる。
「あのなぁ、何色が好きじゃろうか?」
「い、色ですか?・・あ、あの・・み、水色」
もう直也は顔から火が出そうであった。

直也の相手を昭子がしてくれることになったのを見届けて、
「俺の方もお願いします」
と直人は主人に向かって言った。
「あ、そうじゃった。そうじゃった。お客さんの方はのぉ・・」と
バサバサと吊るしてある古着を次々と物色した。
「着物ではいかんですかのぉ?」
「駄目です。洋服にして下さい」
「ウーム」としばらく考え込んでいたが、
何かひらめいたらしく奥へ引っ込んで行った。
やがて戻って来ると、商品の説明をひとくさり始めた。
「これはのぉ、戦時中満州にいよった男から買うたもんじゃけ~ど、
 土肥原大将ちゅうえらいお人の手ごうしちょったと。
 そんでの、そげ~男相撲部屋にいちょった位じゃからデカイ男でのぉ」
「それがこれなんですね」
「そうじゃ。支那服じゃったらええじゃろ思うてのぉ」
くるぶしまである長い丈の灰色の中国服と
その下にはく白いズボンを帳場の机の上に置いた。
「こげ~は相当デカイけ~、
 6尺を越えちょるお人でも大丈夫じゃ思いますけどのぉ」
直人はちょっと考えて
「これで大丈夫です」と判断を下した。
「今すぐ着替えていいですか?」
「あ?で~れ~早うことですのぉ」

一方直也の方はというと、結構難航していた。
細い腰つきはしていても男としての基準であって、
女物のスカートが入らないのである。
店のすぐ奥が物置のようになっていて、
そこで着替え人形のように、薄暗い中でとっかえひっかえ試着していた。
「おっかしいのぉ。このスカートで~れ~細いん違うか?」
昭子も首を捻っている。
(早く何とかしたい)と直也も焦っている。
「じゃったらこげ~は?」と昭子。
試着後、「駄目でした」と直也。この繰り返しであった。
「な、ワンピースでもええ?」と昭子。
「はい」と答えてしばらくしてから
「は、入りました!」
と嬉しそうな直也の声。
「それにしょ~る?」
「はい」
と言って、直也はカーテンから顔を覗かせた。
そして消え入りそうな声で「な、直人・・さ・ん」
と兄を呼んだ。
兄弟だとバレないように名前で呼んだのだと察した直人は
「どうした?」
と言って直也に近づいた。
「後ろのボタン・・」
と直也はワンピースの背中にズラっーと並んだボタンを指差した。
昭和の前半はまだファスナーがなく、ボタンを使用していたのだ。
「ああ、わかった」
と直人は物置に入ってボタンを留めてやった。
「あ、そうじゃ。おとん、靴、靴。靴探さんと」
「あ~靴かいのぉ。わしの方のおきゃ~さんにも靴じゃ!
 おきゃ~さん、足何文じゃろうか?」
(ゲエー、昔の単位で聞かれてもわかんねえ。
 確か、ジャイアント馬場が16文キックという位だから・・)
と必死になって考える。
「あの、14文です。たぶん。
 それと、連れも女としては背が高い方だから、
 足もデカイと思います」
と適当に答えた。
「ウヒョー!そげ~にデカイのあったかのぉ?」
古道具屋というか骨董屋のプライドに火が点いたのだろう、
何とか見繕って探し出してきて、
「この支那靴はどうじゃろうか?」
と紺色の地にビーズの刺繍が施された靴を直也に差し出した。
「さっきの満州にいちょった男が
 土産に家族に買うて来よったんじゃろう」
「髪の毛ェが短いんは、帽子で誤魔化しよったらええんじゃぁ」
と昭子も父親に負けじとサービス精神旺盛で、
どこからかお釜を逆さにしたような形の帽子と
白いレースの三つ折ソックスを探し出してきて直也に手渡した。

やがて直也が着替えを終えて出て来た。
アイボリーの地に桃色の細かい水玉模様をあしらった
ローウエストのワンピースであった。
襟はハイネックの折り返し。
袖は上腕がパフスリーブのようになっている長袖の筒袖。
ローウエストの位置でリボンを結ぶようになっていて、
スカートは綺麗なフレアーのラインを描いていた。
それに、アイボリーに茶色のリボンをあしらった帽子。
レースのソックスに紺色の中国風の靴をはいて、
恥ずかしそうに皆の前に立った。
「あ、帽子はこげ~にしちょったらええ」
と昭子が前のつばをクルンと上に折り返した。
「ほう!」
と主人も感嘆の声を上げた。
直人は驚きのあまり、目を瞠るだけだった。
「もう、完璧!モガじゃ。モダンガールじゃ!のぉ、おとん」
「そうじゃあ。元がおなごはんじゃけ~ぼっこ~美しいのう。
 おきゃ~さん、こげ~に綺麗なお人、幸せにしてあげにゃ~いけんのぉ」
と長い中国服を着た直人の背中をポンポンと叩いた。
「あ、ああ。そうですね・・・」
(俺は軽い気持ちで女装しろと言ったが、こんなに似合うとは・・・)
直人はただ黙って直也を見つめていた。
直也はチラチラと上目遣いで、直人の様子を伺っていた。
「おきゃ~さん、お連れはんがあんま美しゅ~け~見とれちょる。
 もしもし。もしもし」
と声をかけられて、直人はやっと我に返った。

                               ~つづく~




八つ墓村迷宮案内いい旅夢気分 その5

                ~一夜を過ごして~

            <配役>金田一耕助:霧原直人
                   寺田 辰弥:霧原直也
                  藤村食堂の人々 
                  美紀子

思い立ったら直人の行動は早い。
古着屋について尋ねる為、階下に降りて行った。
直也もその後を追った。
「あの、この近くに古着屋ってありますか?」
「古着屋?はて、ちょっと待っちょってつかあさいよ。
 ああ、あるある。あるけ~、川向こうに。
 骨董屋ちゅうか古道具屋ちゅうか・・
 確か服も置いちょった思うけ~どの」
「本当ですか?」
「そうじゃ。そこウチの娘の友達の家じゃけ~。
 ・・ちょっ、美紀子!美紀子や」
女将は奥にいる娘を呼んだ。
「な~ん?おかん」
博多人形のようなすっきりとした顔立ちの少女が顔を出した。
中学生位の年格好で、三つ編みを結っていた。
帳場にいる若い男の2人連れが客だとわかったらしく、
「おいでんせ」
と恥らいつつもペコリと頭を下げた。
直人と直也も軽く会釈した。
「こげ~おきゃ~さんが古着屋を探しちょるんじゃ。
 あんたの友達の、ほれ、永元はんとこの電話番号教えてや~」
「ええよ」
だいぶ親しい間柄なのだろう、
何も見ずにスラスラと番号を言ってのけた。
娘が言った番号を1つ1つ確かめるように、女将はダイヤルを回した。
「あ、永元はんですかの?黒田ですけ~。
 いつも娘がお世話になっちょります。
 実はウチのおきゃ~さんでの・・・・・ああそげ~な。
 開けちょる?そげ~じゃたらええの。
 ・・はい、はい。ほんにゃ~失礼しますけ~」
話が終わり、女将は帳場の方に向き直ると、
「大丈夫じゃけ~霧原はん。古着ある言うちょります。
 朝の10時から店開けちょるけ~」
「そうですか。わざわざ聞いて下さって有難うございました」
「ほいじゃ美紀子、店の場所教えてや~」
女将が差し出した紙に、娘が略地図を書き出した。
「ところで、霧原はん。群馬からようもまあこげ~な遠い所まで・・
 やっぱりあれですかの、鍾乳洞ですかの?」
突然話題を振られて2人は驚いた。
「え、ええ、そうです。その地質調査に来ました」
直人はまた出まかせを言った。
「そげ~なで~。結構来よるけ~ね、偉い大学の先生はん方が。
 ほやけ~、群馬からちゅうのは初めてじゃ」
「俺、いや僕達は、そういう偉い先生の下請けで、
 標本集めをしているんです」
「はあ、下請けはんも苦労ですのぉ」
そうこうしているうちに、娘が地図を書き終えた。
「橋を渡ってまっすぐ行くと郵便局があって、
 その角を左に曲がって・・・」
説明が終わると、「どうも有難う」と直也が礼を言った。
「な、な~ん。どういたしまして」
自分より年上の男に話し掛けられて、
年頃の娘は恥かしそうに目を伏せながら返事をした。

部屋に戻ると、たまりかねたように直也がクスクス笑いながら言った。
「兄さんたら、また出まかせ言って。
 地質調査?標本集め?ホラ吹くの上手くなったね」
「鍾乳洞って言われたんだから、ああ答えるしかないだろう」
「この辺に有名な鍾乳洞があるんだね」
「どうやらそうらしいな」
と言った後、直人は地図を広げた。
「新見の1つ手前に井倉という駅がある。
 ここに井倉洞というのがある。・・・お、八つ墓村にもあるぞ」
「え、どこどこ?」
「これだ。満奇洞というやつだ。機会があったら行ってみたかったな」
「うん。・・何か、ここを舞台に事件が起きそうだね」
「何か感じるのか?」
「そういうんじゃないよ。鍾乳洞って神秘的な感じがするから・・」
「なんだ、そういうことか。
 ま、とにかく、古着屋が見つかってよかった」
「ねえ、兄さん。僕、どうしても女装しなくちゃ駄目?」
「駄目だ」
直人はにべもなく答えた。
「初めてだよ、女装なんかするの」
「何度もしてたら怪しいさ」
「化粧なんかもするの?」
「どうせならすればいいじゃないか」
「やだ!絶対
「大丈夫だ。お前は可愛いから、化粧なんかしなくても十分イケる」
「もう、からかわないでよ、兄さんたら!」
直也は直人にのしかかった。
「お、やるか」
直也の手首を掴むと、直人は体を反転させ体の下に直也を組み敷いた。
直也の顔の横に両手首を縫い止めて顔を覗き込む。
「いい子だから、直也君。お兄さんの言うことを聞こうね」
「意地悪な兄さんの言うことなんか聞かない
顔をプイと横に向けた。
そんな子供のような仕草が可愛くて思えて、直人は思わず微笑んだ。
「わかった。じゃあ、女装はしなくていい。
 だから機嫌直せよ、直也。旅はまだまだ長いんだから」
直也はまだ横を向いている。
「重いよ。早く体どけてよ」
直人は体を起こしたが、
気まずい空気に直人は「寝る」と言って、布団にもぐり込んだ。
直也は無言で、直人から思いっきり離れた場所に布団を移動させると、
裸電球のスイッチをオフにした。50年前の夜は本当に真っ暗だった。

直也の寝相は大層悪かった。
昨夜喧嘩してあんなに布団を離して寝たはずなのに、
夜が明けたら、1つの布団に2人で寝ている状態になっていた。
朝目を覚ますと、
自分の腕の中で直也が寝ている体勢になっていて直人はびっくりした。
直也は相変わらず、観音様のような寝顔を見せていた。
直人は直也を起こさないように、そっと体をずらして上体を起こした。
兄が目覚めた気配を感じたのか、
やがて長い睫が微動し直也も目を開けた。
「兄さん・・」
「悪い。起こしてしまったな」
「ううん」
直也はかぶりを振って上体を起こすと、辺りを見回した。
「何で僕ここに?」
直人は黙って直也の布団が敷いてある場所を指差した。
「えっ、嘘!」
「言っとくが俺は何もしてないからな。お前ってホント寝相いいんだな」
「し、信じられない・・」
「じゃあ、何か?
 夜中俺がお前をわざわざこっちに運んで来たとでも言うのか?」
今までベッドで寝ていたからわからなかった己の寝相の悪さに、
直也は思わず赤面した。しばしの沈黙の後、
「兄さん、昨日はごめんね
「あ?」
「寝ながら考えた。兄さんの言うこと聞くよ。
 ちゃんと女装するから・・・」
俯きながら直也は言った。
「そうか。よく決心したな」
クシャと直也の髪を撫でた。
2人の場合、仲直りはもうこれで十分だった。

朝食は食堂で摂った。
焼き魚と海苔のシンプルな朝食だったが、
この時代では豊かな部類に入る内容だろう。
「兄さん、僕、日本海を見てみたいな」
「ということは、米子行きに乗ればいいんだな」
「うん。そうだね」
2人が会話していると、娘の美紀子がやって来た。
「お早うございます」
2人も挨拶を返した。
日曜で学校がない為か、
三つ編みはせずに髪を下ろした状態でいるので、
昨日とは多少雰囲気が違って見えた。
「あの、これ・・この辺の名産品なんです。
 鍾乳洞の水で作ったサイダーで・・」
なるべくこちらの方言を出さずに話そうとしている様子が伺えた。
「鍾乳洞って、井倉洞?」
直人が尋ねた。
「はい、そうです」
「凄いね。鍾乳洞の水でサイダーなんて」
今度は直也が話し掛ける。
「よ、よかったら、お土産に持って行って下さい」
瓶を2本差し出した。
「えっ、いいんですか?」
「いいんです!ウチに泊まってくれたお礼です」
2人は礼を言おうとしたが、
恥じらいの風情を残しながら、美紀子は立ち去ってしまった。
どうやら直也を多少意識しているらしかった。

2人が食べ終えた頃、美紀子と入れ違いに主人が顔を出した。
「これ握り飯じゃけ~。昼飯にでも食べてつかあさいや」
竹の皮の包みを2個差し出した。
「・・有難うございます!」
「あんたら夕べおかわりしょ~る位、
 美味いちゅうて十番定食を食べてくれちょったじゃろ?
 わし嬉しゅうけんのぉ。十番は藤村の背番号じゃけ~、
 気合の入り方が違うんじゃ。
 握り飯のぉ、若いけ~3個はいけるじゃろう?
 兄弟喧嘩せんように、同じ数にしといたけ~」
ガハハと主人は笑った。
「本当に何から何までお世話になりました」
「ええんじゃ、ええんじゃ。それが客商売ちゅうもんじゃけ~」
「あの、美紀子さんに有難うございますと伝えて下さい。
 これいただいたんで」
直也はサイダーを見せた。
「あ、それな、鍾乳洞の水でできちょるけ~結構イケるんじゃ。
 あの美紀子にしては珍しく気が利くことじゃの。
 美紀子にはちゃ~んと伝えておきますけ~。
 男前の兄さんらが礼を言うちょったと。
 ま、出発までゆっくりしちょってつかあさいな」
再び笑いながら主人は立ち去った。

数時間後、宿の人の温かい心をトランク一杯に詰め込んで
2人は宿を後にした。

                               ~つづく~



Menu

プロフィール

pata2008

Author:pata2008
本年7月まで、『霧原'S BAR★今夜は離さない☆』という
『NIGHT HEAD』煩悩二次小説ブログを共同で管理しておりましたが、
諸般の事情により休止と相成りました。
そこで新しい板を立ち上げ、過去の自分の作品を収めつつ、
新作も少しずつ綴っていくことにしました。

拙作は、ドラマ&映画『NIGHT HEAD』の兄弟萌がベースです。
従って、「ボーイズラヴ」「やおい」的傾向が強めです。
また、パラレル=自分好みの設定にキャラクターを当てはめて書いておりますので、
皆様が考えておられるキャラクターのイメージと異なる場合が多々あるかと存じます。
これらの点を踏まえて、拝読していただけると幸いです。

最新記事

フリーエリア

写真素材

FC2カウンター

最新トラックバック

右サイドメニュー

検索フォーム

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

QRコード

QRコード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。